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生態系・保全

日本の絶滅危惧種を知ろう:レッドリストに載っている身近な生き物たち

どこでもいきものマップ 編集部

「絶滅危惧種」と聞くと、多くの人はジャイアントパンダやホッキョクグマなど、遠い国の大きな動物を思い浮かべるかもしれません。しかし、実は私たちの足元、日本の豊かな自然の中にも、絶滅の危機に瀕している生き物たちが数多く存在します。環境省が作成する「レッドリスト」には、2020年時点で3,700種を超える日本の野生生物が「絶滅のおそれのある種」として掲載されています。今回はその中から、かつては身近な存在だった、あるいは今も意外と身近にいる絶滅危惧種たちの現状と、私たちに何ができるのかを紹介します。

かつて日本の空から消えた鳥、トキ

その美しい朱色の翼から「ニッポニア・ニッポン」という学名を与えられたトキ。その名の通り、かつては日本の空を当たり前のように舞っていました。しかし、明治時代以降の乱獲や、水田の減少、農薬の使用といった生息環境の悪化によってその数を急激に減らし、2003年には日本産の最後の1羽が死亡し、日本の野生下から完全に姿を消しました。

しかし、これで物語は終わりませんでした。1999年に中国から提供されたつがいを元にした人工繁殖が成功し、2008年からは新潟県の佐渡島で野生復帰のための放鳥が開始されたのです。地域住民の協力のもと、餌場となる水田の環境を整備し、農薬を減らすなどの地道な努力が続けられました。その結果、2024年末には野生での生息数が推定576羽にまで回復し、一度は失われた日本の空に、再びトキが舞う姿が見られるようになったのです。トキの復活は、人間が一度壊してしまった自然を、もう一度取り戻すことができるという希望の象徴と言えるでしょう。

食卓から消える?ニホンウナギの危機

夏の土用の丑の日でおなじみのニホンウナギ。日本人にとって古くから親しまれてきた食材ですが、実は2014年に国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されています。その主な原因は、養殖に使われる稚魚(シラスウナギ)の乱獲です。ニホンウナギはまだ完全養殖の技術が確立されておらず、天然のシラスウナギに頼らざるを得ません。これに加えて、海流の変化や、川や河口域の環境悪化も、その数を減らす要因となっています。

私たちが普段口にしているウナギのほとんどが、この危機的な状況にある天然資源に依存しているという事実は、あまり知られていません。このままでは、日本の食文化の象徴ともいえるウナギが、食卓から消えてしまう日も遠くないかもしれません。資源を守るための国際的なルール作りや、違法な漁業の取り締まり強化が急がれています。

小川のメダカはどこへ?

「めだかの学校は川のなか」と歌われるように、メダカはかつて日本のどこにでも見られた、最も身近な魚のひとつでした。しかし、今や野生のメダカは環境省のレッドリストで「絶滅危惧Ⅱ類」に分類され、その姿を見ることは非常に難しくなっています。

その背景には、水田や小川といった生息地のコンクリート化、農薬による水質汚染、そしてブラックバスやアメリカザリガニといった外来種による捕食があります。さらに、近年問題になっているのが「遺伝子攪乱」です。メダカは地域ごとに遺伝的な特徴が異なることがわかっていますが、観賞用に販売されている他の地域のメダカや、品種改良されたヒメダカが安易に放流されることで、その地域固有の遺伝子が失われてしまうのです。善意で行った放流が、逆にその土地のメダカを絶滅に追いやる可能性があることを、私たちは知っておく必要があります。

「どこでもいきものマップ」で地域の自然を知る

では、これらの絶滅の危機に瀕した生き物たちを守るために、私たちに何ができるのでしょうか。その第一歩は、まず自分たちの周りにどのような自然があり、どんな生き物が暮らしているのかを知ることです。

そこで役立つのが、「どこでもいきものマップ」のようなウェブサービスです。これは、GBIF(地球規模生物多様性情報機構)という世界中の生物多様性に関するデータを集めたデータベースを活用しており、スマートフォンやパソコンから、誰でも簡単に指定した場所の周辺で過去にどんな生き物が記録されたかを地図上で見ることができます。もしかしたら、あなたの家の近くの公園や小川で、レッドリストに載っている貴重な生き物が見つかるかもしれません。「どこでもいきものマップ」を片手に近所を散策してみることは、地域の自然の豊かさや、そこに潜む危機に気づくきっかけになるでしょう。


トキの野生復帰は、多くの人々の努力によって自然が回復しうることを示してくれました。一方で、ニホンウナギやメダカが直面している問題は、私たちの生活や行動が、知らず知らずのうちに生き物たちを追い詰めている現実を突きつけます。絶滅危惧種の問題は、決して遠い国の話ではありません。まずは身近な自然に目を向け、そこに暮らす小さな命の存在に思いを馳せてみること。それが、豊かな生物多様性を未来へとつないでいくための、最も重要で、誰にでもできる一歩なのです。